#2 初舞台(マンハント)

3 行動派ミステリィのスタイル

2 あなたもミステリィが書けるかな?


 

見出しで惹け!

 

 前回につづいて、今回もファースト・シーンからおもしろいものをひろってみました。

 

『さあお立ちあい、ドノバン(*1)嬢だ。マスカラをぬった、たった一人の私立探偵だよ。

 後にも先にもないべっぴんの探偵さんだ。たいていの私立探偵さんは事件解決になにか計画をおもちだが、ここもと御紹介のドノバン嬢にはそんなものはいらないよ、彼女には曲線美というやつがあるからね。

 だがお立ちあい、彼女は男性諸君の情けは受けないよ。もちろん、背が高くってハンサムで、筋肉りゅうりゅうの色事ずきの男前はべつだがね』

     “No Business for a Lady” (50)

 

 ハニイ・ウェスト(*2)とかシドリッツ(*3)におされてちっとも噂にならなかったけれど、ペイパー・バック(*4)本の美人私立探偵の元祖はあたいだよっていうのが、ジェイムズ・L・ルーベルの作品のドノバン嬢です。

 ある意味では惹句のうちにはいるものが、見開きや裏表紙にある長い紹介文と引用文です。

 

『俺たちは踊っていた。俺と俺の依頼人だ。だが、ただのダンスなんてものじゃない。急テンポのステップと下着のプレスを一緒にやっているようなものだ。四拍子のリズムで解剖学のレッスンを受けていた、っていってもいい』

 

 こういういい調子の独白は、たいていシェル・スコットと相場がきまっています。

 これはブラザー(*5)の“Over her Dear (59)(編注・小鷹文庫には、同じ作者のOver Her Dear Bodyがあるが、この題名の転記ミスか?)の裏表紙で、もちろん本文からの引用ですが、たいていの惹句は出版社が勝手につけるのでしょう。ペイパー・バック本のていさいはどうみたって手がかかっているとはいえませんが、表紙のデザイン、配列と惹句だけは、商品価値をきめるひとつの重要な要素であるだけに苫労しています。

 作品名は省略しますが、私の手もとにあるペイパー・バック本の表紙をさあっと見ても、

 

『彼女の愛の巣は殺人の罠だった』

『文学的、ハードボイルド、スピード感、暴力』

『彼はただのものは全部とった、他のものはすべて盗んだ』

『荒っぽいミステリィがお好きなら、これこそあなたの好みの作品』

『彼が殺そうとしている男の妻が彼女だとは!』

『男を苦しませ死に導く、ユダのような女』

『大金とすばらしいブロンドに目がくらんだ若いタフな警官』

『女は冷たく事を運び、お熱いのがお好き』

『いやとはいえない娘、たとえ殺人であっても』

『彼が警官であることを女は忘れさせた、彼が男であることか忘れさせないことで』

 

 なかにはピリッとしたものもあるが、多くはこのような煽情的で、オーバーなものが大部分です。週刊誌の見出しつくりに苦労している人にはきっと役にたつと思うんですが。

 

ハードボイルドの真髄

 

 さて、本論にはいりましょう。むずかしくいえば内面描写に相対するものは客観描写ということになります。

 この客観描写を大きく四つにわけてみました。第1は行動描写、第2は人物描写、第3は事件描写、第4が風物(自然)描写です。

 1、2、3はあとでもすこし触れますが、境いめをわけるのがむずかしく、お互いにかさなりあっている部分もあります。

 行動描写のなかにも、単数・複数、多数の人間の行動、さらに動きとしては、ハードボイルドものに類型的な車のシーン、電話シーン、ベッド・シーン、ピストルなど銃器のシーン、およびその他の一般的な動作にわけることができます。

 人物描写は、まったく活動をともなわない男・女・複数の描写が主で、それに他の分類との境界線のものが含まれてきます。

 事件描写は多くの場合、簡潔にリポート調にいつ、どこで、なにが起こったかを述べるもので、ファースト・シーンだけでなく全文がこの調子でつらぬかれたとき、静かななかにも強い効果をあげることができます。風物描写は、文字どおりの自然描写で、大別すると季節、地方(街)、建物にわけることができるでしょう。

 前回も例にひいたようにこの客観的な自然描写においても、ひとつのムード、主観をのべることは可能なのです。

 

『ニューヨークの波止場をおおう夜のとばりは、餌物を求めてうろつく黒いけものに似ている。きらめく舷灯をビーズ玉のように輝やかせた巨船が数隻、ノースリバーの舶着場にもやっている。

 波止場の事務所や倉庫はひっそりと扉をしめ、陰気なバーの明かりと安もののジュークボックスのメロディが、人っ子ひとり通らぬ道に流れていた』

   D・アレグザンダー(*6) “Dead, Men, Dead” (59)(編注・正しくはDead, Man, Dead *Manが単数形=小鷹文庫)

 

『パーク・アベニューとマディソン・アベニューのあいだの一一六番街は、ニューヨークの小サン・ジュアン(*7)(プエルト・リコ人地区)の目ぬき通りの一本である。

 一様に汚れすすけたブリキ建ての家が、長くその一角にならんでいる。

 洗ったこともなさそうな低い石段が、こみいった横丁から小さな暗いおもて戸につながり、男と女たちがごったがえしている。

 男たちはおすのクジャクみたいにハデな身なり、女たちは平凡で実際以上にふけてくたびれた様子をしている。

 白・黒・黄色・褐色の各種の人種の人なみが、絶えまなくゆっくりと、通りを波のように寄せてはかえしている。』

   F・ケーン(*8) “Key Witness” (56)

 

 たとえ通俗ものであっても、このような風物描写や、ピリッと簡潔な事件描写には、ハードボイルド・ミステリィの伝統的な流れやスタイルが、どこからともなくただよってくるようでもあり、正統にうけつがれていることがわかります。

 

舞台を日本へ

 

 

 ある地方や街の風物描写のついでに、あちらの作家が日本をどのように描写しているか、ジョン・マックパートランド(日本ツウの作家、58年歿)の“Tokyo Doll”(53) のファースト・シーンを御紹介しましょう。

 

 『活動と人間の洪水の都会、東京。世界第三位の人口、八百万の人間がスラム街に高地に住んでいる。残忍性のきわみを知り、それでいて幼な子である。――東洋一の怖るべき幼な子である』

 この作中にも白昼暴徒が外車をひっくりかえし、火をつけ、運転手を殺すシーンがありますが、英語の辞書に項目がひとつふえたとかいう〝ゼンガクレン〟をはじめとしたライト、レフトの暴力が外人に与える悪印象は、ミステリィからもうかがえるのです。

 アメリカのミステリィ作家の東洋趣味は前にも少しお話しましたが、新しい作家、アール・ノーマンがバークリー・ブックからたてつづけに、東京近郊を舞台にした私立探偵バーンズ・バニオン=シリーズ(*9)を発表しています。〝ゼンガクレン〟の先輩にあたるゲイシャ・フジヤマ趣味で、きっと在日していたG・Iあがりの作家でしょう。

 “Kill Me in Tokyo” (58)、“Kill Me in Shinbashi” (59)(編注・「新橋」のスペルが違います。正しくはKill Me in Shimbashi 小鷹文庫)、“Kill Me in Yokohama” (60) につづいて61年にもKill Me in……シリーズの第4作『吉原で殺して』を書き、東京―新橋―横浜―吉原とカラテの宣伝に一役買ってくれています。

 


 

のっけからお熱いです

 

「しってるでしょ、汽車の中で男の人と寝るのはじめてよ」

 彼女はブラウスを脱ぎながらいった。「俺もさ」

       “Death before Bedtime” (53)

 

 いきなりドキッとすることをズバリいわれてもビクともしないのが男の子。

 エドガー・ボックスつくるところの宣伝マン、ピーター・サージャントは陽気な男性です。たまたま知りあったちょっとアル中気味の女友達と客車の個室の鍵を気にしながら、よろしくやるあたり、サージャント君もそうとうなシタタカものです。

 ファースト・シーンからぬれ場が登場する例を、つづいていくつか探がして(*10)みましょう。

 ベッド・シーンはまぎれもない「行為」ですから、シカツメらしく私のファースト・シーンの分類にあてはめれば、行動描写にはいります。しかも単数でなく複数です。

 行動描写と人物描写あるいは事件描写は、なかなかはっきりとした境界がつきにくいものです。厳密に男性・女性あるいは数人の人物の、おもに顔やすがたの描写にかぎると、人物描写の範囲が狭くなってしまいます。

 人物にはどうしても動きがともなっているからです。ノウ書きはさておき、ベッド・シーンではやはり動作がおもになっていますから、行動描写といってよいでしょうね。

 お色気シーンのたびにブラザーを引川するようであいすみませんが、次の一節はめずらしくシェル・スコットの登場しない作品です。

 

『長いこと彼女はあえぎながら俺にしがみついていた。唇が俺ののどくびに柔らかい。

 ささやきは愛の言葉ではなく、なにかワイセツなものだった、この女は愛を語るってガラじゃない。

 やがて、肉体をつらぬいてはしる情熱の最後のほとばしりに身をふるわすと、ぐったりと俺から離れてゆき、黒い長いみだれ髪を枕にまきつけて静かに横になった。すんなりしたヌードは、純白のシーツと見まがうほど白かった。

 つつましやかさとか、はじらいのひとかけらもない女。すっぱだかで上を向いて寝ころび、里い瞳がじっと俺をみつめている。

 女はしゃべらない。俺達はしゃべることなどあまりない。限を閉じ、しばらくすると女はすやすやと寝入ってしまった』

        “Dagger of Flesh” (52) (*11)

 

 ゴールド(*12)や同系のクレスト・ブックからたくさんだしているアルバート・コンロイ(*13)は、暴力ものもお色気ものもおとくいです。ひとつ御紹介しておきましょう。

 

『ウォルト・ボナーはモテルの寝室の中央にたって大きなダブルベッドの上の乱れを見やっていた。シーツのしわ、彼らの情熱のあとを見ながら、ペッグの一晩中求めのたくりまわった裸身を、まざまざと思いおこした』

        “Devil in Dungarees” (60)

 

 行動描写のなかでベッド・シーン以上にたびたびファースト・シーンでお目にかかるのは、電話と車とピストルです。

 

 

ヘロー! シェイマス

 

『ニューヨークのあらゆる出来事のはじまりの例にもれず、これも電話のベルではじまった。

 あたたかい、よく聞きとれる女性の声が、「私立探偵のティモシー・デインさんですね」とたずねた。

「そのとおり」

「救けてくださる?(*14)」という女性のお質問。

「何をするんです」

「半時間ほどオフィスでじっと電話を待っていただきたいの」

「どうして?」

 女はガチャンと電話を切ってしまった。で、俺は待つことにした。ちょうど二八分たって……』

   W・アード “The Diary” (52)

 

『電話のベルで六時二〇分に目を覚ました。目覚ましの時間より一〇分早い。眠くて頭が重い。

 もどかしい手つきで手をのばし、あくびまじりに「ハロー」といった。

「バークさん? デビッド・バークさん?」緊迫した御婦人の声』

   J・クレイトン “Stranglehold” (59)

 

『電話のベルの鳴っている夢をみていた。あまりしつっこいのでからだの向きをかえて夢からさめようとした。さめたのにまだ鳴っている。とうとうはっきり正気になってしまった、午前二時一八分過ぎ。受話器をとりあげ 「やあ」といった。

 アイルランドなまりの重い声が聞こえた。

「マック、御婦人の死体と二人っきりでとっても淋しいんだ。すぐ来てくれ」

 彼が電話をきり、俺もきった。毛布のえりを首までひっぱりあげる。いいから、いいから、どこにでも行くさ。だが、どこだか分らない。

 電話がまた鳴った。乱暴に受話器をとると、またさっきの声。

「お前さん、すぐ来たほうがいいっていったろう、東ウォルトンプレイス二一九番地、八〇五号室、かどを曲がってすぐだ」

「まあきけよ、ドノバン(*15)。二時半だぜ」

「御婦人の死体と御一緒してるっていったろ」

「人が死ぬたびにおつきあいはごめんだよ」

「ところがホトケはあんたの依頼人なんだよ。さぞや知りたかろうと思ってね」

 電話がきれた』

   T・B・デューイ “Prey for Me” (54)

 

 この三作、いずれも電話でたたきおこされるのは商売も楽じゃない私立探偵たち。はじめのはティモシー・デイン、次がエイス・ブックの常連作家ジョン・クレイトンの特別捜査官ディヴ・バーク、最後がごぞんじシカゴのマックで、話し相手はよきコンビ殺人課のドノバン警部です。

 

新車でごきげん!

 

『殺人者には寸刻のすきも与えるな、素早く射ち殺せ、ブロンド娘はみんなお前のものになる』なんていうぶっそうなキャッチフレーズをかかげたピーター・レイブの “It’s My Funeral” (57)で、MGにのったダニエル・ポートがごきげん(?)です。

 

『ダニエル・ポー卜は新しいMGのハンドルを初心者のようにかたく握っていた。

 足がグリルからつきだし、今にも下半身がけずられてしまうのではないかと気にしつづけていた』

 

『高速道路には、渡い霧がたちこめていやがる。数マイルというもの、俺の車は這うように狭いアスファルトの中央の白線を目標に進んでいた。いったいどのへんにいるのか、かいもく見当もつかねえ。

 ジョニイ・ベルリン様にとっちゃあ、こいつはあまりうれしいこっちゃねえ。

 ベルリン様は、いつもゲームの進行状況をみて、ペテンにかからぬように仕掛けをみつけておかねえと、おさまらねえ性分なんだ」

   P・レイス “Killer Take All” 59)

 

『第七一号高速道路をはずれ、俺の車はゴールド・コーストにむかった。

 砕石道路は曲がりくねり、いきもののように濡れている。暑い波のなかでチラチラ光る運河が、道路の両側にそって長くはしっている』

   W・フラー “Back Country” (59)

 

 あとのふたつは、フイリップ・レイス(*16)のダニエル・ポートとウイリアム・フラー(*17)のブラッド・ドーラン両私立探偵もののファースト・シーンです。

 

ガンを調べろ!

 

『建物に入るとき、俺は念のためにオーバーのポケットの重い強力なマグナム・三五七を手でおおい、用意を整えた。

 四階建ての古い茶色のビルだった。スパニッシュ・ハーレムにしては、上品で手入れがゆき届いている』

  N・クォーリィ “No Chance in Hell” (60)

 

 『――「拳銃を調べろ!」

 ヴァンニ・ビアンコが命令をくだした。

 テーブルの三人の男は、検査のためにめいめいの武器を手にとった。

 ビアンコはペップ・マンゴーンとテリィ・リッツから受けとったリボルバーをはずし、輪胴をくるくるまわして弾丸を抜きだすと、銃身をのぞいて引金をためしてみた。

 リボルバーをかえすと、次にエディ・ウィリアムズから拳銃を受けとり、机の横の引出しにしまった。

 「オートマティックはいかん」

 彼は冷たくいった。

 「それくらいわかってるだろう」

 彼は予備のリボルバーをウィリアムズに渡すと、自分もショールダー・ホルスターに一丁おさめた』

   E・リプスキー “The Kiss of Death” (47)

 

 ピストルの点検ではじまるこのふたつのファースト・シーンは、ひとつはタフ・ガイのジェイク・バロウ、あとのひとつは名作“The Kiss of Death”のものです。これには、第一章の前に重要なプロローグがついています。

 これでざっと行動、事件、風物描写について御紹介したことになりますが、全般的に客観描写にあってたいせつなものは、文体や、形容詞、副詞のもたらす効果と、比喩(黒いけものとか、おすのクジャクなど)のもつ意味ということになります。

 

 

ニュー・フェイスの探偵さん

 

 最後に、いつものように新しい私立探偵に登場ねがいましょう。

 

『名前はスチーブ・ベントリー(*18)、ふちつきの帽子をかぶり、四五口径ピストルを吊るすありきたりの私立探偵じゃない。朝鮮ではC.I.Dの一員として働いたが、銃声ひとつ聞く機会がなかった。

 皮肉なことに、荒っぽい仕事はワシントンで開いた税務事務所にやってきた」

 デルブックからスチーブ・ベントリーを主人公にして“Murder on the Rocks”, “The House on Q Street”,”End of a Stripper”, “Mistress to Murder”, “Murder on Her Mind”, “Steve Bently’s Calypso Caper”(編注・Steve Bentley’s Calypso Caper), “Angel Eyes” と最近二・三年、たてつづけにこのシリーズを七本も発表しているのが、第二作の裏表紙で自己紹介してもらったスチーブ・ベントリーもののロバート・デイートリッヒ(*19)です。

 

『車から飛びおり、カリフォルニア・グレンディル(*20)の高級住宅街の豪壮な建物に向かいながら、私はクスッと笑った。

 私の助手が知らせてよこした報告書の文句を思いだしたからだ。

〝ミス・グェン・クリストファー、裸で泳ぐ習慣あり〟

 いったい私の助手、ワレン・ケイド(*21)はどうしてこの情報を手に入れたのだろう。直接聞いたのか、近所の噂からか、それとも実地に観察したのだろうか』

     “The Computer Kill” (61)

 

 これはポピュラー・ライブラリーの新しいホープ、レイモンド・バンクスの創造した私立探偵サム・キング=シリーズの第二作のファースト・シーンです。

 第一作が60年の“Meet Me in Darkness”のサム・キングは、盗品発見が専門というカワリダネ探偵で、なわばりはロサンゼルスです。

 前に私立探偵の呼称についていろいろと例をあげましたが、サム・キングは“licensed roving eye”(許可証もちのうろつき屋)と書いてあります。もうひとつ“spotter”なんて呼び名もみつけましたので、ご報告します。だいぶガクがつきましたよね、お互いに。

 イキのいいタフでハンサムな私立探偵は数あれど、これほどシミッタレの探偵はないというキワメつけのアマチュア探偵、ジョニィ・フレッチャー(*22)とサム・クラッグのコンビは、私のごひいきの一組です、

 

 『腕を枕にベッドにごろっとしているジョニィ・フレッチャー、怠けているのじゃなく、これでもけんめいに頭をしぼっているのだった。風呂場では相棒のサム・クラッグが、靴下や下着をじゃぶじゃぶ洗っている。すきっ腹をかかえながら、いかにも楽しそう。

 きのうの晩から、なんにものどを通していなかった。きょうは、なにかにありつけるだろう。

 フレッチャーはそのことを一心に考えていた。フレッチャー様が願ってかなわぬことはけっしてない、と。突然ドアをたたく音が聞えた。水のたれる靴下をさげて、クラッグか出てきた、ジョニィの顔をうかがう。ジョニィが汚ない天井をみつめているときは、考えごとの最中にきまっている。

「誰か来たぜ、ジョニィ、見てみようか?」』

      “The Limping Goose” (54)

 

 やって来たのはべっぴんでもなければ、おびえた依頼人でもないところが、このフランク・グルーバーのミステリィのおもしろいところ。

 クラッグのあけた扉から入ってきたのは、アメリカでは立派な職業としてなりたっている借金とりたて業者。このあと、すきっぱらをかかえての大たちまわりがつづきます。

 無銭飲食のやりかた、ただのり、ただ見の方法、質屋を利用して金をモノにする法など、シミッタレコンビの珍勇伝は、また次の機会にでも御紹介することにいたします。

 さて、客観描写のなかで、もっとも頻度数の多い人物描写のファースト・シーンですが、今回は紙面のつごうでどうしても紹介しきれませんでした。

 私立探偵の日常生活の描写や、女性のすがた・かたちの描写、あるいは冷たくなってしまった人物描写――死体――など興味あるものをたくさん用意しておいたので、次回以降で、適当に紹介させていただきます。

 

 

*出典 『マンハント』1962年2月号

 

 

[校訂]

 

*1:ドノバン(ドノヴァン)

*2:ハニイ(ハニー)・ウェスト

*3:(メイヴィス)・シドリッツ(セドリッツ)

*4:ペイパー・バック → ペイパーバック

*5:ブラザー → R・S・プラザー

*6:D・アレグザンダー(アリグザンダー)

*7:小サン・ジュアン → リトル・サンフアン

*8:F・ケーン(ケイン)

*9:=シリーズ → ・シリーズ

*10:探がして → 探して

*11:Dagger of Flesh → 『肉体の短剣』

*12:ゴールド → ゴールド・メダル

*13:アルバート・コンロイ → [マーヴィン・H・アルバートの別名]

*14:救けてくださる? → 助けてくださる?

*15:ドノバン(ドノヴァン)

*16:フイリップ(フィリップ)・レイス

*17:ウイリアム(ウィリアム)・フラー

*18:スチーブ(スティーヴ)・ベントリー

*19:ロバート・デイートリッヒ(ディートリック)……[ウォーターゲイト事件で悪名高いE・ハワード・ハントの別名]

*20:グレンディル(グレンデイル)

*21:ワレン(ウォーレン)・ケイド

*22:ジョニィ(ジョニー)・フレッチャー

 

 

▶︎3 死んだ女はみな美人? 

 

 

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