出版屋のひとりごと
俺か? 俺は出版屋だ。ケチなペイパー・バック(*2)本の出版屋だ。ご時世も変わった、読者もふえた、出版社も質より量で勝負ってことになる。文学だ、芸術だ、啓蒙だなんてゴタクをならべていたのはひと昔まえのこと。俺たちはビジネスに徹して売りまくることしか考えていない。
それが俺たちの生きてゆく道なんだ。一冊25セントか30セント、当世コーヒー代にもならないハシタ金をかき集めるいわばゴミ屋みたいな仕事だ。
だがチリもつもれば山となるのたとえ、20万、30万部とまとまればたいした額さ。いまどきハード・カバー(*3)で二千部・三千部をけんめいに売るなんて、問題にならない。
内容が低俗だとか、悪影響をおよぼすとか、表紙が刺激的だなんて文句をつける筋もあるが、読者はけっこう楽しんでいるのさ。
なにも俺たちのつくるものを書物だなんて考えてもらわなくてもけっこう。
買って楽しんでゴミ箱にすてちまう、それでけっこうだ。俺たちは商売人だから難しいことはわからない。だが、書物なんてものはいずれそんなものになっちまうんじゃないかって考えている。
俺たちがいちばん気にしているのは、大衆の欲求、好み、時勢の移り変わりってところだけだ。それに応じて工夫しなければならないのはなんてったって表紙だ。
読者をつるには表紙がすごく重要になる。ペイパー・バック本の表看板。宣伝効果はすべて表紙にかかっているともいえる。
タイトル、なれあいの賞め(*4)ことば、会社のマーク、おどし文句、おかかえの流行作家の名前、どれもこれも大切だが、俺たち商売人の腕のみせどころはカバー・ピクチュアってやつだ。こいつには苦労するよ、まったく。
俺たちが苦心して工夫した表紙の絵をどこかの物好きな野郎が分類したっていうんで、こんどはひとつその野郎のご高説とかを聞いてやろうと思う。ひとさまの仕事を分類して原稿料にしやがるなんてガメツイ野郎だが、ひょっとするとなんかの役にたつかもしれない。ガメツイのは俺たちも同じだ。なにしろ出版屋っていうのは、今や上昇株のひとつなんだから。さあ仕事だ、仕事だ。
解説屋の前書き
――というところが先月号(*5)もお話したペイパー・バック本出版社のホンネではないでしょうか。こないだ来日したあちらの作家ローレンス・トリートもいっていました。多くの読者を楽しませるペイパー・バック本は近い将来出版界を手中におさめる勢力を築きつつあるって。
出版社側が口をとじ、作家側がいつも口にすることといえば、原稿料が安いという話。
古いハード・カバー出版社と強いつながりを持っていたやはり古い作家たちが、徐々に後退する。一方新しい作家がペイパー・バック本にオリジナルを書くことになんのためらいも感じなくなるようになった現状を認めれば、ペイパー・バック本の出版屋の鼻息が荒くなるのも当然でしょう。
立派な書物を出版する使命感より、ビジネス第一主義がまかりとおっているのです。
書き手が山ほどいるとすれば、原稿料が安いのもまた至極当然。時勢の波にはさからえません。こういった傾向が正しいかどうか、それは批評家が決めるのではなく、大衆が決めることです。企業としての出版、マス・コミ(*6)のなかの出版を正しい方向に導いてゆく指導者は、現代では見失なわれています。
さて、それでは、そろそろ本題、カバー・ピクチュアー(*7)の分類にとりかかることにいたしましょう。
①「それは犯罪だ!」
リチャード・エリントン
②「誰もみなかった男」
ピーター・チュイニイ(編注・チェイニー)
③「野獣の時」
トマス・ウォルシュ(*8)
④「ご婦人が殺しにやってきた」
M・E・チェイバー
⑤「最後の殺人」
チャーリー・ウェルズ
⑥「競馬場の殺人」
ローレンス・ラライア
⑦「足を洗った悪徳警官」
エド・レイシイ
⑧「恐怖の限界」
W・P・マッギバーン(編注・マッギヴァーン)
⑨「お熱い乗り物」
J・M・フレイン
⑩「冷たい金髪娘」
アダム・ナイト
⑪「おさえつけておけない女」
デイ・ケーン(編注・キーン)
⑫「危険な女ども」
B・ハリデイ
⑬「ラム(牡羊)の日」
ビル・ゴールト
⑭「殺し屋婦人」
ロバート・コルビイ(編注・コルビー)
⑮「レディには向かぬ商売」
J・L・ラベル(編注・ルーベル)
⑯「愛しき肉体を越えて」
R・S・プラザー
⑰「マンハント」本国版・59年4月号
カバー・ピクチュアの三つの鍵
今回、カバー・ピクチュア分類の対象としたペイパー・バック本の総数は500冊(第1表)、手持ちの本のなかから無作為に選んだものです。アメリカでの発行部数の順序や差にあわせて選べばよかったのですが、計算上便利な冊数に統一しました。
第1表 調査対象出版社別内訳
出版社名 | 冊数 |
GOLD MEDAL BOOK | 75 |
POCKET BOOK | 75 |
SIGNET BOOKS | 75 |
AVON BOOK | 75 |
DELL BOOK | 75 |
BANTAM BOOKS | 50 |
その他の出版社 | 75 |
総計 | 500 |
備考 手持ちのペイパーバッグ本から500冊を無造作に選んで対象とした。
数字とかパーセンテージというやつはややこしくってめんどうなものですが、根気よく調べるとなかなか興味ある結果がでてくるものです。
前回もお話しましたが、ペイバー・バック本のカバー・ピクチュアは抽象的であるより具体的、暗示的であるより簡潔・強烈・直接的に訴えかけるものでなくてはなりません。
おおまかにペイパー・バック本の表紙の絵の要素を分類すると暴力シーン、お色気シーン、恐怖シーンの三つになります。
もちろん、この三大要素はたがいに重なりあって表紙の効果をたかめているのですが、内容のもつ特定の傾向を手早くはっきり読者に伝える役目をもっています。
ときにはサディスティックなまでのアクションもの、野獣小説、暴力小説は暴力シーンで、お色気としゃれっ気を身上とするプレイボーイ探偵もの、セックスものはお色気シーンで、恐怖とサスペンスを売りものにするスリラーはおびえる女性や逃げまわる男、すきまからのぞく眼(8例1.6%)(*9)などの恐怖シーンでだいたいの傾向が示されます。
ここでもレディ・ファースト
映画にも大道具・小道具があるように、ペイパー・バック本のカバー・ピクチュア(*10)にも、それらがうまくつかわれています。
このなかで主役級の要素は、なんといっても半裸の女性です。女なしでははじまらないのは古今東西を通じて誤まらない(*11)真理。ムクツケキ野郎どもがペイパー・バック本の読者の大部分とすれば、なおさらのことでしょう。
広告として男性の眼をひくものは女性の裸身、女性の眼をひくものはきらきら輝やくアクセサリー、と相場がきまっています。
精神科の患者のなかには裸体恐怖症(ジムノフォビィア(*12))、婦人恐怖症(ジニフォビィア(*13))なんて、男のカザカミにもおけぬとんでもない不心得者がいるそうですが、こんなのは例外、第2表でもおわかりのように全表紙のうち女性の登場するものは92.6%を占めています。
女性の登場しない7.4%の大部分は前回ご紹介した私立探偵ものや殺し屋のもの、今回の①②の暴力シーンが売りもののカバーです。また⑬のように、女性はでていても背景に小さくあつかわれているものもあります。
第2表によれば、男性・女性各1の表紙44.7%と圧倒的な割合を占めています。
第2表 表紙登場人物・人数別分類
人数別 | 例数 | % |
男性、女性各1名 | 239 | 47.8% |
男性のみ(複数も含む) | 37 | 7.4% |
女性のみ(複数も含む) | 117 | 23.4% |
男性、女性複数 | 107 | 21.4% |
総計 | 500 |
100.0% |
備考 ポケット、バンタムは男だけの表紙が多く、複数はエイボン(編注・エイヴォン)、その他に多い。女だけの表紙はデルに多い。
この内には重要な部分を女性が受けもち、男は背景⑨⑭、前景⑥⑦⑧、死体⑮⑰、あるいはカットとして探偵の顔があしらわれている⑯例など、いわばワキ役をつとめているものが多くみられます。
女性だけの表紙⑩⑪は23.4%、男女複数のもの⑨⑬21.4%と、ほぼ勢力が均衡しています。
全裸から正装まで
このようにカバー・ピクチュアの主役をつとめる女性の登場する表紙を服飾的見地から分類してみましょう。(第3表)
第3表 女性の服飾的分類
服飾的分類 | 例数 | % |
正装 |
116 | 23.2% |
半裸、略装 |
306 | 61.2% |
全裸 | 41 | 8.2% |
女性の登場しないもの | 37 | 7.4% |
総計 | 500 | 100.0% |
備考 正装には顔だけのものも含む。半裸には正装の露出適度を含む。全裸には布地(タオル・シーツ)を含む。ポケットには正装が多く,シグネット,ゴールド,その他に半裸が目立つ。
もっとも安あがりで、もっともショッキングな服装、生れたまんまの全裸のお女性が表紙につかわれているのは8.2%。⑭のリチャード・S・プラザーや、スチーブン・マーロー(*14)でおなじみのゴールド・メダル・ブックや合本のエイス・ブックに多くみられます。
全裸といっても衣服以外の布地、タオルとかシーツのたぐいで身をかくした絵も含んでいるので、やや水増しされています。
ポーズもバックスタイル(*15)が多く、正面の場合は逆光写真なみに前面が暗くぼやかされています。しかし、どのようなポーズにしろ、脚にポイントをおいた絵が多い結果がでています。
ベッドの上の全裸身となると13例、2.6%。男女混合のカバー・ピクチュアが多いといっても、さすがに、ベッドの上で全裸の女性が男とレスリングをしているのはありません。
全裸の女性像はショッキングといっても広告の効果としてはあまりあるとは思えません。これと反対に女性のでない表紙や正装の女性23.2%もお色気はでてきません。
正装女性となると、⑧の例のようにおびえている姿とか、顔だけのクローズ・アップで、お品の良いポケット・ブックの表紙に多くみられます。
まるはだかに対して、もっばらチラリズムで対抗する半裸の女性は61.2%と圧倒的です。
なにも裸身をさらさなくても、痛めつけられたりおびえたりしている女性に、この上もないセックス・アピールを感ずる人種もいるそうですが、正常な男性なら、まあ半裸の女性の胸もと、内またといったところに気をそそられるでしょう。第4表は半裸の女性についての6項目のデータです。2項目以上にまたがる場合もあって、はっきりどこといえない場合も重なっていますが、身体各部を胸もと、脚、バックスタイルの三大部門にしぼってみますと、強調されているのは胸、脚、背中の順になっているのがわかります。
第4表 半裸女性のポーズ、強調部分
強調部分とポーズ | 例数 |
胸部 | 201 |
脚、うち股 | 114 |
背中 | 27 |
男と斗うシーン | 44 |
ラブ・シーン | 20 |
ベッドと半裸の女性 | 48 |
考察 からだの各部は重複する場合もある。脚をかなり強調しているのはゴールドとバンタム。ベッドの多いのはエイボン(編注・エイヴォン)とデル。
(編注 「斗う」は「闘う」の略字として使用?)
例に用いた⑨⑩⑪はその例です。
⑨はぴったりした黒のタイツのお女性のバック・スタイル、着るところなのか脱ぐところなのか、ちょっぴり気にかかるブロンドさんです。バックを思いきって上下白くしたところが新鮮な感じです。
⑩はニュー・ヨーク(*16)っ子の私立探偵、スチーブ・コネイカー(*17)の登場する『冷たい金髪娘』、胸の谷間をずり落ちそうな肩ひもがささえています。真ッ赤な、タイトル、白ぬきの作家名、ブロンドの髪、小麦色の肌、うすねずみ色のスーツと背景。すっきりした構成と人の眼を惹く配色です。本書の献辞がふるっています。”To Larry, who is a softboiled egg”
⑪は『おさえつけておけない女』とでも訳しましょうか。黒いスーツのすそが割れてすんなりした内またがのぞけています。全体に暗いバックにタイトルの黄色が浮かびあがり、デイ・キーンの作品らしいにごった熱っぽいお色気を暗示しています。
アメリカ映画を象徴するいくつかの偉大なバストこそ、やはり男性の憧れのマトなのでしょう。⑤⑫も乳房が強調されている例です。
みずから胸をはだける露出狂の女性(スピレインの表紙など)、男の暴力でむきだしにされる乳房、チラリとみえる胸の谷間など種々様々ですが、映倫なみに〝可愛いい(*18)サクランボ〟の描写だけは遠慮されているようです。
胸から脚へ、脚から背中へ、興味の中心が最近やや移行しかけている傾向もうかがえます。③⑪となると眼は自然に脚に向きます。⑨⑭⑯となればシェル・スコットならずともニヤニヤしたくなる美しい背中にポイントが合わされてきます。
大道具さまざま
ところで、このような半裸の女性を引きたてるのはいくつかの大道具・小道具です。
まず第4表にもあるように暴力をふるう男性と共演するシーンが44例、8.8%。③とか⑤がその例です。ラブシーンは割合いに少なく20例、これはペイパー・バックの方針が強くあらわれているといえるでしょう。愛情シーンはペイパー・バックのミステリーものには不向きなのです。
大道具の一つが暴力をふるう男性だとすれば、あとの一つは死体です。
ピストルを持つ女性と床に倒れた男の死体の例は⑮⑰にもありますが、殺されるのはどうも男の方が多いとみえて、男の死体57例、11.4%に比して、女の死体は50例、10.0%となっています。男の死体はブザマだからでしょうか。⑮では線画、⑰では上半身のみになっています。
女性の死体もあるのですが、フェミニストの私にしてみれば、出すにしのびなかったわけです。
⑮はジェイムズ・L・ルーベルの作品。マスカラを塗り、素敵な曲線を秘めた女私立探偵のハシリとなったものです。(50年ゴールド)(*19)
⑰はペイパー・バック本でなく、本誌「マンハント」の本国版の表紙です。
多くのミステリー雑誌が、ペイパー・バック本にならって今でもこのようなカバー・ピクチュアーを使用していますが、ブラック・マスク誌以来の伝統といいますから、本来は雑誌のほうが先鞭をつけたのです。
ベッドとナイフ
小道具としてはベッドとナイフ、その他の武器があげられます。
自動車王国のアメリカにしては、車の登場がほとんどないのはどうしてでしょうか。⑨の背景、⑪の例などはほんの例外です。
小道具の第1はベッドで、総数63例12.6%とかなりの割合を占めています。この内にはベッドにあらずしてベッド本来の役目を果たす、大型椅子やソファも含めてあります。
ベッドとなれば、女性はつきもの、総数63の内訳は正装女性2、半裸身48、全裸身13となっています。
ナイフその他の武器も小道具として効果を発揮していますが、今回はピストルを中心に集めてみましたので、刃物狂の読者にはあいスマない結果になってしまいました。
手に入らないピストルならともかく、ここ当分は刄物恐怖症(エイクモフォビィア)(*20)のご時世ですから、ご遠慮してデータだけにしておきます。
ナイフは17例、ハル・エルスンやモートン・クーパーなどチンピラものの作品に多くみられます。その他ではチェーン、手ぬぐい、首飾り、などを含む縛ったり吊ったりする繩のたぐいが21例、カバー・ピクチュアとしては興味あるものが二・三みられました。注射器、ハンマー、火かき棒、アイスピック、むち、蹄、手錠、鉤、といったところが変わりダネで毒蛇、猛犬などの表紙もあります。
出版屋のひとりごと
なるほど、解説屋だけあっていろいろ調べてやがる。だが肝心カナメのものを忘れてやしませんかっていいたいね。何かって? そうよ、ガンよ、ピストルよ、拳銃よ。持てもできないくせに日本じゃたいしたブームだっていうじゃねえか。サービスのつもりじゃないが、ずいぶんピストルの絵も載せてるつもりなんだがね。ピストルが何丁載っているか教えてもらいたいもんだね。
ガン・ガンまたガン
「裸女と拳銃」と銘うちながら最後になってしまいましたが、おおせに従って次にピストルの分類をしてみましょう。
総数500冊のうちピストルの載っている表紙は191例、38.2%を占めています。(第5表)
第5表 拳銃のある表紙分類
拳銃所持者 | 例数(火を吐くピストル) |
男と拳銃 |
132(10) |
女と拳銃 | 43(4) |
カットに用いられた拳銃 | 16 |
総計 | 191(14) |
備考 出版社別にピストルのでてくる順位をみると,バンタム,シグネット,その他,ポケット,エイボン(編注・エイヴォン),ゴールド,デルになる。
小銃・ライフルはわずか5例で、大部分がピストルといってさしつかえありません。
カバー・ピクチュアのさし絵が不正確なので鑑別しにくい例が多いのですが、コルト・オートマチック(*21)とS&Wのリボルバー(*22)、ブローニング・オートマチックの三社が普及しているだけに三横綱で、ちょっと変わったところといってもルーガーぐらいが関の山で、マニアには物足りないでしょう。
暴力シーンに用いられる拳銃①②⑨、おびえる女性を前に拳銃を握る男③⑥⑦⑧と、男がもつ拳銃が70%近くを占め、男と争う女性がもつ拳銃④⑤、死体を前にした女性の手の拳銃⑮⑰、狙いをさだめる女性の拳銃⑩⑫⑭と、女性と拳銃は20%強です。
火を吐く拳銃②④は割に少なく、14例でした。順に説明しながらピストルの鑑別をしますが、さし絵が不明瞭なものが多く、明快な判定にとまどうのですが、その正非は読者におまかせしましょう。
①リチャード・エリントン「それは犯罪だ!」(48)。ポケット・ブック版、私立探偵スチーブ(*23)・ドレイクのS&Wミリタリ&ポリス38口径のスクウェア・バットが、悪人の頬を殴りつけたところです。
②ピーター・チュイニイ(*24)『誰もみなかった男』(49)エイボン・ブック版、蒼白な男の顔、口元からしたたる鮮血、火を吐くコルト・45、オートマチック、スライドが反動でもどったところでしょう。部分的には多少ちがいますが、絵空事かもしれません。
③もコルト・オートマチックでしょう。『野獣の時』(58)。トマス・ウォルシュ(*25)、ミグネット(*26)版。
④はルーガー、インチバレルの9ミリ口径。火を吐く拳銃を握りながら金髪娘にキスをしようとしているのはM・E・チェイバーつくるところのミロ(*27)・マーチ、作品は『ご婦人が殺しにやって来た』(58)とでも訳しましょう。ポケット・ブックにしてはハデな表紙です。
⑤『最後の殺人』(55)。チャーリー・ウェルズ、胸もあらわな美女の指先きがあわや引き金をひかんとしているところ。S&Wのリボルバー。モデル'50・44口径でしょうか。
⑥も⑤と同じ型。銃身がやや長い。おびえる女性を前に交叉してピストルを奪いあう男の腕といった構図は力強い。win, place は競馬用語で優賞・二着(あるいは入賞)の意味。直訳は難しいので『競馬場の殺人』としておきます。ハードボイルド派の多作家ローレンス・ラライアの53年の作品、⑤と同じシグネット・ブック。
⑦The Menは警官、The Boysがギャング、『足を洗った悪徳警官』(56)ということになりますが、ハード・ボイルドの次代のチャンピオン、エド・レイシイの元警官ものです。拳銃はコルト・オフィシャル・スペシャル38口径6インチバレル(*28)でしょう。
⑧『恐怖の限界』(58)、W・P・マッギバーン(*29)。④と同じルーガーです。⑦⑧ともポケット・ブック版。
⑨以下はあまり大きくないので、はっきりしません。⑩はブローニングの小型オートマチック、⑫は正面なのでなんともいえません。写真をアレンジしたカバー・ピクチュアはゴールドやクレストにもありますが、この『危険な女ども』B・ハリデイのアンソロジー(55)は、なかなかすぐれています。
⑬ビル・ゴールト『ラム(牡羊)の日』(56)。もとロサンゼルスのフットボール・チーム名ガードの私立探偵ブロック・キャラハンがわき腹のホルスターにリボルバーを収めている図です。バンタム・ブック。
⑭『殺し屋婦人』(59)ロバート・コルビイ(*30)、エイス・ブック、いかに殺し屋でもコルト・45ガバンメントは重たそうです。
⑮『レディには向かぬ商売』の女私立探偵ドノバン嬢(*31)は本文ではワルサーP38とコルト・オートマチックを持っていることになっているのに、表紙ではS&Wのリボルバーになっています。
⑯『愛しき肉体を越えて』R・S・プラザーの59年作品、⑰は『マンハント』本国版59年の4月号、いずれもブローニング・ハイ・パワー、9ミリ口径らしいのですが、ご婦人の手に比べてちょっと小さすぎるようです。
表紙画家は大あたり
ペイパー・パック本のカバーに載ったピストルは今回対象にした内だけで191もあり、いずれ別の機会にご紹介することにいたします。
最後になりましたが、原稿料の安い作家に比べてけっこう良い商売をしているのは表紙の画家でしょう。描きまくっている流行児の商業画家の名前を挙げてみます。ベスト・テンに入る画家は、ロバート・マガィア(*32)⑤⑩、マイケル・フック(*33)⑬、ジェイムズ・ミース⑧、ボブ・マックギニス(*34)、ヴィクター・カーリン(*35)、ロバート・スタンレー(*36)、ハリイ・シャーレ(*37)、バリイ(*38)・フィリップス、ダーシイ、ボブ・アベットといったメンメンです。
今月はこれくらいにして、来月号はペイパー・バック本のタイトルの分類を、カバー・ピクチュアを楽しみながらお話しすることにいたします。
*出典 『マンハント』1961年9月号
[校訂]
*1:マンハント掲載時は「行動派ミステリィの〝顔〟談義」
*2:ペイパー・バック → ペイパーバック
*3:ハード・カバー → ハードカヴァー
*4:賞める (ほめる)
*5:先月号 → 1961年8月号
*6:マス・コミ → マスコミ
*7:カバー・ピクチュアー → カヴァー・ピクチャー
*8:トマス・ウォルシュ → ロバート・ウォルシュ
*9:(8例1.6%)*「調査数500例のうち8例」で1.6%の意。
*10:カバー・ピクチュア → カヴァー・ピクチャー
*11:誤まらない → 揺るぎない[?]
*12:ジムノフォビィア → ジムノフォービア
*13:ジニフォビィア → ジネフォービア
*14:スチーブン(スティーヴン)・マーロー(マーロウ)
*15:バックスタイル → バック・スタイル
*16:ニュー・ヨーク → ニューヨーク
*17:スチーブ(スティーヴ)・コネイカー(コナカー)
*18:可愛いい → 可愛い
*19:ゴールド → ゴールド・メダル
*20:エイクモフォビィア → エイクモフォービア
*21:オートマチック → オートマティック
*22:リボルバー → リヴォルヴァー
*23:スチーブ(スティーヴ)・ドレイク
*24:ピーター・チュイニイ(チェイニー)
*25:トマス・ウォルシュ → ロバート・ウォルシュ
*26:ミグネット → シグネット
*27:ミロ(マイロ)・マーチ
*28:インチバレル → インチ・バレル
*29:W・P・マッギバーン(W・P・マッギヴァーン)
*30:ロバート・コルビイ(コルビー)
*31:ドノバン(ドノヴァン)
*32:ロバート・マガィア(マガイア)
*33:マイケル(ミッチェル)・フック(フックス)
*34:ボブ・マックギニス(マッギニス)
*35:ヴィクター・カーリン(ケイリン)
*36:ロバート・スタンレー(スタンリー)
*37:ハリイ(ハリー)・シャーレ(シャー)
*38:バリイ(バリー)・フィリップス